第3章 アメリカ行政学の展開
1 行政理論の系譜
アメリカ行政学の建学の父祖=ウッドロウ・ウィルソン『行政の研究』(1887年)とフランク・グッドナウ『政治と行
政』(1900年)
行政領域に対する政党の侵害を是正せよ→有能で効率的な政府を建設せよという内容=
★政治・行政の分離論(分断論,二分論)=「近代民主制の政党政治のもとで官僚制を弱体化させ
たイギリス・アメリカでは再確立されねばならなかったもの」→行政職員の任免の領域から財
務会計事務の処理,行政組織の編成などの領域への拡張→
ニューヨーク市政調査会(1906年設立):分離論の中心的な推進機関。経営学と紙一重の性格→
★行政管理論
行政管理論の2つの系統:@事務管理論により「節約と能率」を価値規準とした社会通念の定着
(ニューヨーク市政調査会が「節約と能率に関する大統領委員会」
(1912年)に参画)
A組織管理論:組織一般の編成原理を探求。『管理科学論集』(ルーサー
・ギューリックとリンダル・アーウィック)↓
ギューリックによるPOSDCoRB:
組織のトップが担うべき総括管理機能:企画(planning),組織(organizing),人事(staffing),
指揮監督(directing),調整(coordinating),報告(reporting),予算(budgeting)の7機能←
フランクリン・ローズヴェルト大統領設置の「行政管理に関する大統領委員会」(1937年。ブラウンロー委員
会)。ギューリックはトップを補佐する総括管理機関の整備充実を提言→大統領府の創設(1つの
産物)
市会・市支配人制(もう1つの産物。1908年。Council-Manager System):市会が市支配人(City
Manager)を任命。支配人は執政権を全面的に担い、行政各部門を指揮監督。基本理念は政治と
行政の分離
◎分離論は行政固有の領域に属する活動の合理化(事務管理論)と、執政権の統合・強化(組織
管理論)を図る。
★政治・行政の融合論:1940年代。行政権の優越化・行政国家への批判として。(分離論は政党政
治と行政固有領域を切口としたが,)融合論は政策形成と、行政活動(行政府による政策の立
案・実施)を切り口とした。→
意義@政治・行政の交錯領域に注目。行政学の研究対象の拡大
意義Aドワイト・ワルドーは「価値中立的」に見える行政における政治的イデオロギー性を暴露。ハー
バード・サイモンは行政における「素朴」な科学主義の疑似性を指摘
意義B規範論議の再生→両者の協働の規範(指導・補佐関係)
★行政の責任論へと推移:ファイナーは,議会による行政府の行政活動に対する統制の重要性を,フリード
リッヒは,民衆感情に直接に対応する行政責任と,客観的・科学的な規準に対応する責任(=機能
的責任)を強調
2 組織理論の系譜
○科学的管理法:フレデリック・テイラーが創始。「作業の科学」→職務分類,標準コストの概念、職員研修
などの基礎となる
○古典的組織論(組織の編成論):「組織の科学」へ。機能別職長制度(複数の職長)を排撃した
@「命令系統の一元化」の原理をめぐる論題(組織の形態はピラミッド型の階層
制構造) A「統制の範囲」の原理 B「同質性による分業」の原理(目的(縦割
り組織),作業方法(横割り組織),対象集団,管轄区域の4基準にもとづく)。同
時にライン・スタッフ理論の提唱をめぐる論題
ライン・スタッフ理論:ライン系統組織の管理者には,その管理機能を補佐するスタッフを配置すべき
(スタッフは管理者に対する助言・勧告に徹せよ。みずから命令・決裁するな←
「命令系統の一元化」原理を守るために)
○人間関係論(組織の生成論):組織を構成する要素は職務(科学的管理法,古典的組織論)では
なく人間:エルトン・メイヨーがホーソン工場を対象に実地調査:インフォーマルな人間関係に注
目。フォーマル組織はフォーマル組織の前提。しかし、「フォーマル組織について新しい組織編
成原理を提示するものではありえなかった。」
○現代組織論(組織の形成論):編成と生成の結合。チェスター・バーナード『経営者の役割』。「組織」=
組織構成員相互間の人間行動のシステム(目的・資材・人材等の側面を捨象)
「フォーマル組織の構造よりもその作動に着目して、その静態でなく動態をとらえ
ようとしたもの」。鍵概念は構成員相互間の意思伝達(コミュニケーション)
○意思決定論(組織の経営論):ハーバード・サイモン『管理行動』。コミュニケーションの結節点における意思決定
に焦点→「合理的な選択」の理論が発展→政策決定・政策評価研究へ応用、さら
に管理科学・政策科学が発展
第4章 行政学の構成
1 日本における行政学の展開
1921年:東大・京大の法学部に行政学講座の新設
戦後期の行政学:@アメリカ行政学の摂取→理論研究
A制度改革研究→歴史研究や実態調査研究(実践課題に対応するための研究)
アメリカ行政学:官僚制の伝統なし、分権的な政府間関係、大統領制のもとでの政治・行政関係と
いった背景。(日本:明治以来強固な官僚制。集権・融合型の政府間関係。戦後
の議院内閣制)
憲法構造の歴史的発展段階論:絶対制→近代民主制(移行過程で民主化が課題)→現代民主制(移
行過程で能率化が課題)。日本(戦後改革):絶対制→現代民主制(×民主化・○能率化の二重
課題に直面)。しかし,余りにもマクロなレベルの認識枠組み
「あくまで日本の行政を素材にし、これを子細に観察し理論化することを通して、みずからを築き
上げていくほかに途はない」
2 行政学の構成
行政学:「行政活動について考察する学」>「公的な官僚制組織の活動について考察する学」>
「政府(=行政府・立法府・司法府。中央・地方政府)に属するヒエラルヒー型組織の集
団行動について考察する学」>「公的な官僚制組織の集団行動に焦点を当て,これにつ
いて政治学的に考察する学」
公的な官僚制組織:社会学,経営学との考察対象の違い。特殊性として、@規模大 A多種多様な
業務 B統一的評価基準なし C業務の独占的性格 D細部ルール・非柔軟性 E究極
では政治メカニズムによる規律
財政学*―*行政学:歳出論における財政民主主義・予算・財務関係に係わる制度・活動では視点の
違いは紙一重
公法学*―*行政学:行政活動を規律する規範・法律行為よりも事実行為に関心。裁判規範としての
機能(法令)よりも行為規範としての機能(予算,行政規則)
政治学*―*行政学:広義には政治学の1分野。しかし、公的な官僚制組織の集団行動を権力関係現
象や政治過程の産物としてのみ説明(政治学原論・政治過程論)せず、組織間関係の枠
組みに還元した説明もせず、行政活動における組織内の統制・調整・協働関係の混在に
注目し、政治現象との相違点を描き出す
「行政学は諸学の混成物か合成物か?」↓
行政国家現象←行政学:権力分立原理―行政権優越化現象,民主制原理―官僚制化,地方自治制原
理―新中央集権化原理。価値規準は正当性・合法性・公平性*=*☆政治制度学
○職能国家現象←行政学:業務量・職員数・財政規模の膨張・拡大に注目。行政管理と行政改革のた
めの行政学。価値規準は経済性・能率性*=*☆経営管理学
○横割りの行政学:行政府・各省全体の総括管理機能を担当する官房系統組織に対応→行政資源の膨
張抑制と適正配分を志向。管理学に傾斜した行政学
●福祉国家現象←行政学:政策・サービスの主観的意図と客観的効果の妥当性に注目。価値規準は有
効性・適応性*=*☆新しい政策学をめざしたもの
●縦割りの行政学:行政府の所掌事務を分掌している各省各局に対応する、特定領域での管理学・政
策学→政策・サービスの拡充発展を志向(政策学に傾斜した行政学)
★行政活動の現場への足場を築き、全行政活動の体系図を作成し、これを手引きに行政学の各論を積み上げよ!